JPAニュース2020年10月15日号
高野文夫 NPO日本プレゼンテーション協会理事長
9月の新刊「共感力」&「感性と共感力」から抜粋
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1、フロイトの精神分析学
人付き合いを考える為には、人間の欲望について知ることが大切です。
人間の欲望についてはいくつかの学説がありますが、現在特に大きな位置を占めているのが、オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトの説いた精神分析学です。
ところで人間の「欲望」には、意識的なものと、無意識的なものがあります。彼は、精神分析学を創設して、人間の広大な無意識の世界に光を当てました。
我々の意識は、ちょうど水面上に浮いている氷山の一角と、それよりはるかに大きい無意識が、水面下の氷の様に存在しているというのです。それは正に流氷の如くです。
彼が20世紀はじめに創設した、心を分析することで精神疾患を治療する方法があります。頭に浮かんだことの全てをそのまま話す「自由連想法」を用いて、無意識の内容を意識化してゆくのです。 |
フロイトが創始した精神分析療法はその後、弟子や多くの研究者、実践者たちによって理論や実践方法が発展し、「精神分析的心理療法」へと変化していきました。
2、フロイトが考えた心の「心的装置」
フロイトは、「意識」よりも記憶が豊富に蓄積されている「無意識」の働きを重要視していました。
そして、無意識を「思い出したくない感情や観念の集まり」のことと捉え、意識と無意識の間を「自我」が調整していると考えました。
最終的に、心が以下の3層からなるという「心的装置」と呼ばれる理論に辿りつきました。これらの考え方は精神医学だけでなく、心理学や社会学など、広い分野に大きな影響を与えています。
エス(Es)
幼児期から抑圧されてきたものが蓄積されている領域です。無意識的で、欲望や原始的な衝動のもととなります。快を求め、不快を避ける「快感原則」が支配するのです。
自我(Ego)
エスが生む原始的衝動に現実的な思考をはさみ、実際の行動とのバランスをとる領域です。
超自我(Super-Ego)
親のしつけや社会のルールを心のなかに取り入れて形成された、道徳的な良心のこと。親が子にするように、超自我は自我を監視して制御しているという。
3、欲望についての笑いばなし
人間の欲望についての学説は、フロイトが説いたもの以外にもいろいろあります。ここでは説明しませんが、マズローの欲求五段階説は有名です。ここでユダヤ人を引き合いに出した興味深い笑い話をご紹介しましょう。
天国で五人のユダヤ人が議論をしています。人生で何が一番重要かの議論です。
・第一のユダヤ人モーゼは、頭を指さして、理性こそ最も重要だと言った。
・第二のユダヤ人キリストは、胸を指さして、心すなわち愛こそ最も大事なものであるといった。
・第三のユダヤ人マルクスは、胃袋を指さして、腹を満たすものすなわち物やお金が最も大事だと言った。
・第四のユダヤ人フロイトは、今少し下の方を指さして、性こそが、最も大事なものだと言ったのだった。
・最後に、第五のユダヤ人アインシュタインは言いました。「いや、すべては相対的だと」
この笑い話は、事の本質を言いあてていると思う。そして学問と宗教の誕生をも言いあてており、ユダヤ人の知性のすばらしさを示しているのです。
見事に人間の欲望の基本的なものを示していると思いませんか?