プレゼン最前線2021年7月15日号
高野文夫 日本プレゼンテーション協会 会長

仲間をどうやって集め巻き込むか

はじめに

私はリーダーにとって最も大切な要素は、仲間や他人に仕(つか)える精神を持っているかどうかだと思います。自分の為だけではなく“他が為に生きる” という精神です。

そのような精神を持った人は、周りから好かれるし、信頼され自然に皆から支えてもらえるものだと思います。

社会人になり、何れかの組織の長になったら、部下のみならず部下の家庭まで預かっているのだと言う責任感と自負心を持つことが大切だと思うのです。

随分前になりますが、トヨタ自動車の奥田会長の秘書を勤められた岸本周平さんという方からとても良いお話をお聞きしました。

成功しているトヨタ自動車では、一般の工員よりホワイトカラーのリーダーの方がお辞儀の角度が深いそうです。職位の高い人程腰が低いのだそうです。

ミノルタ(今は、コニカ・ミノルタ)と言うカメラメーカーがありますね。

その会社の社名のいわれを聞いて、成功する会社はさすがだなと感激しました。

 “実るほど頭(こうべ)をたれる稲穂かな” という言葉からとって社名にしたそうです。“上に立つ人程、腰を低くして他が為に尽くせ!” との創業者の思いを物語っているのです。

人の心に火をつけるには

理想論といわれるかも知らないが、あの人の為ならたとえ火の中、槍の中という言葉がありますね。私は28年間に及ぶ会社員生活の中で、そのような上司に2度出会いました。

残念ながら、その二人のうちの一人は、過労のため会社で倒れ若くしてあの世に旅たたれました。私の目の前で倒れ、そのまま昏睡状態になってしまったのでした。

家族の駆けつける間も無く最後の息を引取られたのでした。上司の死に水をとるとは思いもよらぬ出来事でした。そして当時では珍しくも過労死と認定され、社葬になったのです。

私は直属の部下として多くの事を考えさせられました。

上司の死は、間違いなく部下としての私にも責任があったと思えたからです。

なぜ仕事を一人で抱え込まずに、部下や他部署に振って、自分は手を抜き、土日は休むようにと説得しなかったのかと悔やまれたのです。

この事が契機になって、私は仕事や諸々の活動に対する考え方を大きく変えました。

会社での仕事に限らず、難しい骨の折れる作業は一人で苦しんでやるものではなく、あたかもバースデーケーキを分け合うように皆で楽しみながらやるべきものだと・・。

私は、会社の仕事、家庭での諸々の作業(例えば食事の準備や草むしり)、自治会役員の仕事、子ども会野球の監督コーチ、地元での空手の指導等いずれも一人で抱え込まずにチームで分け合うことにしました。

私は千葉の行徳という所に40年以上住んでいます。浦安と行徳は隣り合わせなのですが、徳川家康が鷹狩に通ったといわれる江戸時代以前から名のある由緒ある土地です。

夏の水神様祭りと秋のお祭りには、都内からも多くの人が集まります。

その地元の、子ども会の会長や自治会の役員をやりました。

お神輿を担ぎ、水神祭りでは白装束で神官の真似事もやりました。

それらを通して学んだことは計り知れない程なのです。

要は、お神輿は皆で力を合わせなければ担げないと言うことでした。

担ぐためには、リーダーが皆の呼吸を合わせねばならないのです。

そして、とても重要な事はリーダーにしっかりしたプレゼンスがあることです。それはリーダーシップであり人間味やカリスマ性でもあります。

頭なんかはどうだっていいのです。かえって少し位ぬけていたほうが良いかもしれません。リーダーは、仕事と言うバースデーケーキに火をつけ歌の音頭をとるのが役目なのです。

苦しい仕事も楽しいお祭り事にできるのです。要はムード作り、「場と空気」の運用です。そして会社の仕事も、気の合った仲間とディズニーランドに遊びに来ているノリで楽しみながらやるものだと思っています。

その方が良いアイデアが湧くし、疲れない。チームのパワーやシナジー効果も出ます。音楽を聞きながら、歌でも歌い、踊りながらやればいいのです。

リーダーたるものは、チーム員の心に火をつけリーダーの目の届かない所でも自律的にしかも嬉々として動いてくれるような“場と空気”を作らねばなりません。

リーダーは、レバレッジ(てこの支柱)になって部下を躍らせれば好いのです。よしんば、自分は遊んでいたって良いんです。

そのような環境作りをするのがリーダーのリーダーたる所以(ゆえん)なのではないでしょうか。

何を言われようとリーダーは、自分の仕事は緩めに組んで置いて部下を助ける余裕を持つべきです。何時も忙殺されているリーダーに誰が気安く相談に行けますか。

私はあっちこっちで言って歩いています。忙しくしているリーダーはそれだけでコミュニケーションや部下育成の機会を削いでいると・・。

仕事は、1人で抱え込んでストイックにやっても結局は大きな業績には結びつかないのです。要は、いかにチームで一枚岩になれるかに掛かっているのです。そのような“場と空気”作りが出来るかどうかが上司の器量に掛かっているのです。

そして、人はお金や肩書きだけでは動かない。

会社員も、職務分掌を明確にしてガラス張りの評価制度を確立たって動かなくなってきています。

部下の心に火をつけるとは、正に自分が火に燃えて、その火の粉が部下にかかって部下も燃えるというものです。組織には、あのリーダーがいる限り私はついてゆく。最後まであの人と頑張り抜きたいと思わせる幹になるリーダーが必要なのです。

 この続きは2021年8月15日号になります。

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